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2017-08

残されたもの(1) - 2011.04.04 Mon

キーを打つ手に任せてみた人狼BBS二次創作SS。
狼騒ぎ終了後の神×妙話。二人とも村側。
完結までのめどが概ね立ったので途中まで載せてみました。
追記で読めます。続きはまた後日。

(1)

「雨が降りそうですね」
 天を仰いで、ジムゾンは言った。曇天の、鉛色の空が重苦しい。
 ゆっくりと視線を水平に戻す。
 教会の裏の薄暗い土地に墓が並んでいた。
 どれもここ数日で立てられたばかりの真新しい墓石。
 その下で眠る者たちはもう、何も語らない。

 ジムゾンは墓石の列をもう一度見回した。
 こんな最期を遂げることになると、ほんの十日ほど前までは一体誰が想像できただろう。
 皆、老衰でも、病に倒れたわけでもない。
 殺されたのだ。
 人狼の餌食になった者、村人たちによって処刑された者、
 どちらであっても良く見知った者の手にかかって。

 怨嗟でも未練でもいい。墓の下から死者が何かを伝えてくれないだろうかと思ったが、
今は何も視えなかった。
 数日前まで備えていた、死んだ者が人狼かそうでないのかを見抜くことができた霊力は、
最後の狼の死と時を同じくして消えてしまったようだ。

「戻りましょうか?」
 傍らにいた少女にジムゾンは尋ねた。今この村にいる、自分以外のたった一人の生者。
 少女は自分の僧服の裾を握り締めて震えていた。
「……うん」
 頷くのと同時に発せられた声が弱々しかったので、ジムゾンは彼女の目線の高さに
あわせて屈み、安心させるように言った。
「大丈夫ですよリーザ。もうこれ以上、お墓は増えません」


   ◇  ◇  ◇


 墓が立つたび、村から声が減った。

 
 今まで共に過ごしてきた者たちの中から、毎日誰かが死んでいく。
 次に死ぬのは自分ではないかというあの恐怖。
 いや、自分が死ぬならまだましだ。最悪なのは――

 悪夢のような日々が終わり、生き残った他の者は村を去っていった。
 同じ村に住んでいた者同士で、お前が化け物なのだろうと疑いあい、罵りあい、
殺しあった。昨日まで元気だった者の惨たらしく食い殺された死体を、夜が明けるたびに
見せつけられては怯えて過ごした。
 血なまぐさい場所から、陰惨な思いをした場所から離れたいのは当然だ。
 人狼騒ぎが起きたと知れ渡れば、周囲の村の者から虐げられるか、最悪、せっかく拾った
命さえ奪われかねない。お前たちもその人狼ではないのかと疑われるだろうからだ。
早々に村から離れ、どこか遠くで過去を捨てて生きるほうが安息を得られるのは
間違いなかった。

 ……それでも、自分は村に残ろうと思った。


 主のいない宿の一階で、リーザは席に着きカップの水をちびちび飲み始めた。
 カウンターの後ろには酒樽が並んでいるが、幼い彼女が飲むようなものではない。
 もっとも昨日こっそり手を出そうとしていたので、油断は禁物なのだが。

 正直なところ、ジムゾンはリーザに困惑していた。
 彼女が村に残ったのは、自分がいるからだろう。
 パメラとアルビンが一緒に村を離れようと説得したが無駄だった。リーザは頑なに
残ると言い張った。
 思えば、無理やりにでも連れて行ってもらうべきだった。リーザの恨みはいくらか
買うかもしれないが、そのほうが彼女のためだったと今も思う。

「ねえ、神父さん」
 ジムゾンが向かいに座ると、リーザはカップを置いた。
「リーザ、お酒は駄目ですよ」
「ちがうの」
 少女はぶんぶんと首を振った。青い目でじっとこちらを見据えて言う。
「リーザはパメラさんたちについていったほうがよかった?」
「ええと、そりゃ……まあ」
 ジムゾンは曖昧に答えた。言い切ってしまうのは、さすがに憚られたのだ。
 リーザは露骨に顔をしかめた。
「リーザもいなくなって、神父さんはひとりで残って……どうするの?」
「私は――」
「パメラさんが言ってた。神父さんは死ぬ気だって。だから残るんだって」
「……パメラさんも、何を」
 口では馬鹿げていると言わんばかりだったが、内心では笑い飛ばせなかった。
 自ら死にに行く気はなかった。けれどあまり生に執着していないのはその通りだろう。
積極的に生きるつもりならば、先に村を発った者たちと同様に他所へ移ったほうがいい。
 そんな不安定さが見てとれたのだろう。いっそう不安げに、少女は詰め寄った。
「パメラさんの言ってたことは本当なの?」

 ……彼女の言葉をすぐに否定できなかったのが良くなかった。
「もうお墓は増えないって、言ったのに」 
 リーザは席を立って、宿の戸を開けた。
 いつの間にか外は雨が降り出したようだ。開けた途端に雨音が屋内まで聞こえる。
「どこへ? まさか今からパメラさんたちを追う気ですか」
「言わない」
 ジムゾンが止めるのも聞かず、少女は玄関から出て行った。


 リーザの後を反射的に追って飛び出したものの、戸外に出てすぐに見失ってしまった。 
泥を撥ねて駆け去る音も聞こえない。
 濡れるのも構わず走り始めて思った。村はこんなに広かっただろうかと。
 雨で土がぬかるんでいるから、リーザの足跡が見えればいいのだが、もう日は暮れて
いた。並ぶ家は空き家ばかりで、明かりがついていない。足元は暗くて見えなかった。

 リーザはレジーナの宿に住み込んでいたから、彼女が拗ねたときはたいてい、
宿の部屋に篭っていたと聞いている。けれども、こうして外に飛び出した場合にどこに
行くかは見当がつかない。何度も足を滑らせそうになりながら村を一周したが、人影は
見当たらなかった。
「リーザは私を困らせて楽しんでいるのでしょうか」
 空き家になった村長の家の軒先で、黒髪からぽたぽた滴る水を拭う。
 恨めしげに雨を見やるが、ここで雨宿りしていてもしばらくは止みそうになかった。
 子供の足だ。こんな雨で遠くには行かないとは思うが……

「……?」
 ふと、門の傍の植木が揺れたような気がした。そこにいるのか。

「リーザ。出てきなさい」
 ジムゾンは呼びかけた。返事はない。
 
「かけっこの次はかくれんぼですか」
 返事はない。

 少なからぬ苛立ちを表情に滲ませて、雨に打たれながら植木に近づくと、
「あの……」
 リーザはびくびくしながら姿を見せた。
 ……神父が呼びかけていた植木の、道向かいの石垣の陰から。

「……ええと」
 見当違いのところに呼びかけていたことになんとなくばつが悪くなったし、彼女に
怒りたい気持ちもあった。謝りたい気持ちもあった。
 けれどリーザの顔を見ると、それらは言葉にならなかった。
 何事もなく出てきてくれたことへの安堵に遮られて。

 雨でぐしゃぐしゃになっていた少女の金髪を撫でてやる。
 手を取れば冷たい。
 二人して夕の雨の中で何をやっているのか。
 自嘲気味に笑うと、ジムゾンはリーザの手を引いて、出来る限り雨に当たらないように
して宿まで戻ることにした。
 
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